Zエンジンのスペシャリスト・石神克俊インタビュー

今までにカワサキZ系エンジンだけで150機以上を組み上げている石神氏。先日行われた筑波サーキットのレース(テイスト・オブ・ツクバ)では、石神氏の製作・メンテナンスしているZが、なんと驚異の58秒台を叩き出しました。

現行のスーパースポーツにスリックタイヤの組み合わせでも、なかなか出せないタイムです。それを、一般公道用タイヤを履くカワサキZで出したのです。

ご自身でもZで走り続ける石神氏が考える、カワサキZの魅力とは?Zエンジンの作り方と注意点とは?

カワサキZ系エンジンのスペシャリストである石神克俊氏に、お話を伺ってきました。

レースでの石神克俊氏

カワサキZとの出会い

編集部:「そもそも石神さんは、いつ頃からZに乗るようになったのですか?乗るキッカケは、どのようなものだったのでしょう?」

石神:「僕も同じ年代の皆さんと同じで、若い頃からオートバイが好きで、毎日のように乗り回していました。当時は空前のバイクブーム・レースブームでしたから、自然にサーキットに通い、レースに出るようになりました。」

「20代の頃は、レースをしながらオートバイ雑誌の仕事に携わっていましたが、ちょっとしたキッカケから、あるバイク屋さんにお世話になる事になりました。そこのお客さんにZ系の方が多く、ショップオーナーさんもZが好きだったことから、ある意味、自然に乗るようになったという感じです。」

編集部:「初めてカワサキZに乗った時の印象を覚えていますか?」

石神:「よく覚えていますよ。いやー、とにかく乗りにくかった。重い、アクセルまで重い、ブレーキは効かない、遅い。なんで皆、こんなバイクに乗るんだろう、って思いましたね。」


カワサキZの魅力とは?

編集部:「第一印象がそんなに悪かったZに、何故今でも乗り続けているのでしょう?」

石神:「僕は横浜にずっと住んでいましたから、一番通いやすいサーキットは筑波サーキットなんですね。その筑波サーキットで年に2回、カワサキZ系やスズキGS系、カタナ等が走れる旧車クラスがあるんですが、そのレースに出場するようになって、どんどん楽しくなっていったんです。」

「当然、速く走るオートバイじゃありませんから、いろいろなところに手を入れることになります。そうすると、自然に自分好みのオートバイになってくる、これがまた楽しいんですよ。」

編集部:「手を入れる所は、人それぞれですよね?という事は、乗り手によってオートバイの仕上がりは違ってくる、ということですか?」

石神:「はい、おっしゃる通りです。見た目は同じようなZでも、乗り手や作り手によってオートバイの仕上がりは全く変わってきます。」

「カワサキのZなんて、中古で購入してエンジンも絶好調、なんてことは、まず有り得ません。なにせ古いオートバイですから。その古いオートバイを現代においても速く走らせようというのですから、必然的にエンジンも含めて手を入れる箇所は多くなります。」

石神:「僕は、カワサキZは料理の素材だと思っています。素材の良さを引き出し味付けするのは、人の手です。ですから、料理人によって味付けが変わってくるのです。つまり、乗り手の好みに合わせたマシン作りができる、ということです。そこがZ系オートバイの最大の魅力だと思っています。」


楽しく走らせるために必要なこと

編集部:「では、そんな石神さんを魅了したZですが、楽しく走らせるために必要なことは、いったい何でしょうか?」

石神:「それはもう、壊れない事、これに尽きますね。オートバイを収集して満足される方もいらっしゃいますが、僕は基本的にはオートバイは乗って楽しむもの、と思っています。」

「どんなに素晴らしいZが出来たとしても、一瞬で壊れたら何にもなりません。いくらパワーを出しても、すぐに壊れるエンジンは使えませんし、何も楽しくありません。ですから、壊れないエンジンを作る、これが基本だと思っています。」

イエローコーン号
石神氏が製作・メンテナンスしているイエローコーンZ

そう話す石神氏ですが、実際に彼の作った最強のZとも言えるイエローコーン号は、製作から既に10年以上経過し、サーキットで酷使されているにも関わらず、今までに致命的なエンジントラブルは皆無だと言います。

シリンダーヘッドなどの重要パーツは、製作時のものが今も使われているとのことです。

また彼のお客さんの中には、チューンされたエンジンで10万キロを越えて、なお走り続けている人もいるとか。


カワサキZを含む、旧車との向き合い方

編集部:「カワサキZ系や旧車は、今や一つのブランドとして認識されて、非常に人気があります。ユーザーやユーザー予備軍も多いカテゴリだと思うのですが、これからユーザーは、どうやってそのような旧車と向き合っていけば良いと考えていますか?」

石神:「カワサキZ系を含む、いわゆる旧車は、調子良く走らせようと思えば、必然的にエンジンのオーバーホールを含め、何かしら手を入れる必要があります。40年前のオートバイが、何もしないで調子良く走るはずがありませんから。しかし、とにかく部品がありません。当然メーカーからパーツなんて出てきません。」

「車体や外装は、アフターパーツや他車の流用でどうにでもなりますが、エンジンパーツ、特にシリンダーヘッドやクランクケース等は、程度の良いものは殆ど出回っていません。そこが一番ネックになっています。」

編集部:「エンジンパーツが欲しくても無い、手に入らない、という事は、現状のものを使うしかない、ということですか?」

石神:「そうです。あるものを使うしかありません。特にトラブルのあったエンジンでは、開けてみると酷い場合も多いものです。現行車両なら、間違いなくヘッドやシリンダーを交換するような状況でも、パーツが入手できないのですから、直して使えるようにするしかありません。」

「そんな状況ですから、Z系エンジンを長くいじっていると、自然に溶接や加工が上手くなるんですよ(笑)。僕は、折れたフィンだけじゃなく、溶けたシリンダーヘッドや欠けたクランクケースなども、直せるものは直して使用可能な状態にします。それくらい出来ないと、Z系エンジンのオーバーホールやチューニングは、すぐに行き詰ってしまいます。部品が無いんですからね。」

そう話した後、実際に修理・再生したエンジンパーツの写真を見せて頂きました。デトネーションで溶けたヘッド、ピン部分が欠けたクランクケース、フィンが折れたシリンダーヘッド、全て見事に修理・再生していました。

中には、古いフェラーリのヘッドカバーを修理した写真まで・・・

シリンダーヘッドのフィン再生
シリンダーヘッド修正

クランクケースの修正前と修正後
クランクケース修正

このような技術でエンジンパーツを再生しているとは、驚きです。こんな職人さんがいるからこそ、古いオートバイでも調子良く走らせることができるのだと、関心しました。


長く乗るために

編集部:「では、Zを含めた旧車を長く楽しむために、具体的に何をすれば良いのでしょうか?」

石神:「まず初めに、40年前に生産されたオートバイだということを理解してください。調子が悪い、という車両の多くは、買った時のままだったり、何もしないで乗りっぱなしだったりするものです。これで40年前のオートバイが、調子良く走る訳がありませんよね。」

「これからも長く乗るためには、エンジンをオーバーホールして、車体各部もチェックと基本メンテナンスすること、これは最低限必要になってきます。間違いなく、各部が痛んでいたり劣化していますから。」


カワサキZにお勧めのメニューとは?

オーバーホールしたZのシリンダーヘッド
オーバーホール後のシリンダーヘッド

編集部:「では石神さんがお勧めする、長く楽しむためのメニューを教えて下さい。」

石神:「まず、空けていないエンジンはNGです。カワサキのZ系に関しては、最低限、オーバーホールはするべきです。いくら車体や外装にお金を掛けても、エンジンが40年前の状態では無駄になりますから。古いエンジンですから、いつ何がどうなっても、不思議ではありません。大きなトラブルが発生する前に、オーバーホールはするべきでしょうね。」

編集部:「エンジンは、やはりオーバーホールはしないとダメなんですね。考えてみれば、40年物のエンジンが調子良く走る訳がありませんものね。では、車体回りに関してはどうでしょうか?」

石神:「Zマニアの方の中には、生産時のオリジナルにこだわる方もいらっしゃいますが、個人的には非常に危険だと考えます。40年前とは交通事情も違います。タイヤも違います。特にブレーキとサスペンションは、当時のオリジナルの状態では危ないだけです。」

「ですから車体回りに関しては、最低限、サスペンションとブレーキは、イメージを損なわない程度の現代パーツを使うべきだと考えています。」


コストについて

編集部:「憧れのカワサキZを購入したとして、乗って長く楽しむためには、エンジンや車体回り、全て一通りオーバーホールしたり手を入れたりしなければならない、という事は分かりました。正直に言って、お金が掛かりますね。」

石神:「車両を150万円で購入して、そのオートバイにたとえ500万円掛けたとしても、走るだけを考えたなら、現行のスーパースポーツには全く及びません。歯が立ちません。ですから、走行性能だけを求める方は、Zを含めた旧車には乗らない方がいいでしょう。」

「でも、私を含めたZマニアは、そこに価値を見出してはいません。一言で言えば、現行の車両は『マシン』というイメージです。対してZは、『オートバイ』というイメージがあります。」

編集部:「今のオートバイは、非常に高性能でクセもなく、購入時のままでも速く走ることが可能ですが、カワサキZ系は手を入れながら自分の一部に仕上げていって、それを操って楽しむ、というイメージですね。」

石神:「おっしゃる通りです。古くて思うように走らないオートバイを、自分好みに仕上げていって、言うことを聞いてくれないオートバイを乗りこなす、そんな楽しみがZにはあるんです。」


ショップ選びのポイント

カワサキのZ系オートバイを整備してくれるショップは、全国に幾つもあります。初めて手に入れたユーザーの方は、調子を良くして長く楽しむために、どこに整備や修理を依頼したら良いのか、なかなか判断がつきません。

編集部:「Zの整備をウリにしているショップはたくさんありますが、ユーザーには評判や細かな技術までは分かりませんよね。そこで、ショップ選びについてのポイントを教えて頂けますか?」

石神:「これは個人的な意見なのですが、Z屋さん、Z専門店と言うからには、やはりショップオーナーさんもZが大好き、Zに乗っている、といったところがいいと思います。オーナー自らがZに乗っていれば、Zに関する情報量は多いですし、なにより乗り味は実際に乗って走らせないと分からない事ですから。」


最後に伝えたい事

Zエンジンのスペシャリスト・石神克俊氏
カワサキZについて語る石神氏

編集部:「これを読んで頂いているZオーナーさんに、最後に伝えたい事は何かありますか?」

石神:「カワサキのZ系オートバイは、何度もお伝えしていますが、40年も前に生産されたオートバイです。そのままで調子良く走れる、という訳にはいきません。全体に手を入れて、整備する必要があります。」

「その際、どこをどうするか、これは作り手の腕のみせどころでもありますが、実際に乗ってどうなのかは、ほとんどのオーナーさんは経験が無いので分かりません。だから、機会があればの話ですが、できるだけ人のZに乗ってみる、これをお勧めします。乗ってみるのが一番分かりやすいです。」

「各部に手を入れられたZに実際に乗ってみれば、ご自身の求める仕様が、より明確になってきます。このオートバイはちょっと違うぞ、この仕様は凄く乗りやすいな、そんな事が分かってきます。経験値や情報量が増えますから、必然的に選択肢も増えてきます。」

石神:「一人でも楽しめるのがオートバイですが、同じ車種に乗る仲間が増えれば、そのような事も可能になってきます。カワサキのZ系は、乗ってもイジっても楽しいオートバイです。ぜひ多くの方にZで楽しいオートバイライフを送ってもらいたいと思っています。そのために僕たちがいるのですから。」

編集部:「石神さん、今日は長い時間をありがとうございました。今度機会があれば、ぜひ石神さんのZに乗らせてくださいね。」

(2017.12 編集部)


今回お話を伺ったZエンジンのスペシャリスト、石神氏のショップはこちらです。

GODSTONE(ゴッドストーン)

Z系を中心に、旧車エンジンのオーバーホールやチューニングをメインとした業務を行っています。数多くのZエンジンをチューニング…(⇒詳しく見る)

ゴッドストーン

Zエンジン・旧車エンジンのスペシャリスト

045-334-8160
〒220-0046 神奈川県横浜市西区西戸部町2-210
国道1号線 浜松町交差点から車で5分